商社が担う防衛調達——3年で8,206億円、伊藤忠アビエーション1社で2,000億円
防衛産業といえば、三菱重工、川崎重工、IHI。装備品を作るメーカーが語られる。
しかし契約データを企業別に集計していくと、上位に商社が並ぶことに気づく。伊藤忠アビエーション、双日、三井物産エアロスペース、住商エアロシステム、丸紅エアロスペース。いずれも装備品を製造しない企業である。
契約データ39ヶ月分(2023年4月〜2026年6月・22,392件)から、商社・専門商社にあたる企業を抽出した。2,620件・8,206億円・74社。国内企業向け契約の6.3%を占める。
規模
| 年度 | 件数 | 金額 |
|---|---|---|
| 令和5年度 | 794件 | 2,391億円 |
| 令和6年度 | 876件 | 3,244億円 |
| 令和7年度 | 810件 | 2,388億円 |
安定して年間2,400〜3,200億円の水準にある。
上位企業
| 順位 | 企業 | 金額 | 件数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 伊藤忠アビエーション | 2,003.7億円 | 115件 |
| 2 | 中川物産 | 950.4億円 | 571件 |
| 3 | 住商エアロシステム | 686.3億円 | 150件 |
| 4 | 双日 | 607.2億円 | 7件 |
| 5 | 三菱商事 | 546.8億円 | 19件 |
| 6 | 三井物産エアロスペース | 481.7億円 | 21件 |
| 7 | 伊藤忠エネクス | 448.5億円 | 57件 |
| 8 | 双日エアロスペース | 348.0億円 | 115件 |
| 9 | IHIエアロスペース | 323.3億円 | 28件 |
| 10 | 大塚商会 | 287.2億円 | 9件 |
伊藤忠アビエーションの2,003億円は、国内企業全体で見ても11位に入る規模である。日立製作所(2,037億円)とほぼ同水準だ。
2位の中川物産は571件と件数が突出しているが、これは燃料調達が中心である。伊藤忠エネクスも同様に燃料系。性格が異なる2種類の商社が混在している。
何を扱っているか
| 契約 | 金額 | 商社 |
|---|---|---|
| 滞空型UAV(シーガーディアン) | 414.0億円 | 双日 |
| JSM(統合打撃ミサイル) | 340.3億円 | 伊藤忠アビエーション |
| JSM | 296.5億円 | 伊藤忠アビエーション |
| 高性能20mm機関砲 | 185.1億円 | 伊藤忠アビエーション |
| 高性能20mm機関砲性能向上器材 | 180.4億円 | 伊藤忠アビエーション |
| 垂直発射魚雷投射ロケット | 170.1億円 | 三菱商事 |
| F-2用ターゲティング・ポッド | 163.2億円 | 三菱商事 |
| USV(供試器材) | 152.3億円 | 三井物産エアロスペース |
| ソフトウェア(Microsoftライセンス) | 133.9億円 | 大塚商会 |
JSM、シーガーディアン、ターゲティング・ポッド。いずれも海外製の装備品である。
商社は製造していない。海外メーカーの製品を輸入し、防衛省に納入する。この商流を担うのが、専門商社の役割になっている。
「輸入代理権」という参入障壁
なぜ商社を通すのか。随意契約の理由を読むと分かる。
契約理由に「技術援助契約」「技術導入契約」「輸入販売代理」「販売代理」「独占的」「総代理店」といった語を含む契約は、1,491件・2兆7,729億円にのぼる。全体の17%である。
この区分の上位を見ると、意外な構成になる。
| 順位 | 企業 | 金額 | 件数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 三菱重工業 | 9,953.1億円 | 203件 |
| 2 | 川崎重工業 | 5,580.5億円 | 110件 |
| 3 | 伊藤忠アビエーション | 1,959.6億円 | 96件 |
| 4 | 日本製鋼所 | 1,870.6億円 | 54件 |
| 5 | 三菱電機 | 1,557.5億円 | 23件 |
| 6 | SUBARU | 1,446.2億円 | 74件 |
| 7 | 小松製作所 | 562.7億円 | 18件 |
| 8 | 藤倉航装 | 492.6億円 | 56件 |
商社だけでなく、プライム企業も海外ライセンスによる調達で上位を占めている。
三菱重工の9,953億円は、海外メーカーとのライセンス生産契約が中心とみられる。日本国内で製造していても、技術は海外から導入したものであり、その権利を持つ企業でなければ製造できない。
つまり構造はこうなる。
海外メーカーの技術・製品
↓ ライセンスまたは代理権
特定の日本企業(商社またはプライム)
↓
防衛省
この権利を持たない企業は、同じ製品を扱えない。 製造図書による独占とは別種の、しかし同じくらい強固な参入障壁がここにある。
参入を考える企業への含意
商社系の受注8,206億円は、国内企業向け契約の6.3%にすぎない。しかし件数では2,620件あり、これは全22,392件の11.7%にあたる。金額より件数の比重が大きい。
そして重要な点として、商社は装備品を作らない。 つまり、
- 海外に良い製品があれば、それを取り扱う可能性がある
- 国内メーカーにとっては、商社が競合になり得る
- 逆に、商社と組むという選択肢もある
海外メーカーの日本市場参入を支援する立場であれば、この商流は入口になる。実際、伊藤忠アビエーション、双日エアロスペース、住商エアロシステム、丸紅エアロスペース、三井物産エアロスペースといった航空・防衛専門の子会社が、各商社に設けられている。
「防衛産業に参入する」というとき、製造以外の道が存在する。 データが示しているのはそのことである。
本稿の限界
商社の抽出は、企業名に「商事」「物産」「エアロスペース」「アビエーション」等を含むかどうかで機械的に判定した。この方法では、
- 社名から商社と判別できない専門商社を取りこぼしている
- IHIエアロスペースのようにメーカー系の子会社も含まれている
- 燃料商社と装備品商社が混在している
という問題がある。より精緻な分析には、企業ごとの事業内容の確認が必要になる。
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本稿について
- 対象データ:防衛装備庁「契約に係る情報の公表(中央調達分)」2023年4月〜2026年6月分(126ファイル・22,392件)
- 商社の抽出は企業名に基づく機械的判定によるものであり、実際の事業内容を確認したものではありません
- 集計・分類は筆者が独自に実施したものであり、防衛省・防衛装備庁の公式見解ではありません
- 金額は契約金額であり、支出ベースとは異なります
- 本稿は防衛政策の是非を論じるものではなく、公開調達データから産業構造を観察するものです
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