防衛費は誰に流れているか——3年間で三菱重工1社に4兆円、上位10社で73%
防衛費が5年間で43.5兆円に増額される。では、その金は実際にどこへ流れているのか。
防衛装備庁が公表している契約データを2023年4月から2026年6月まで39ヶ月分、22,392件を統合し、契約相手方ごとに集計した。契約総額は16.24兆円になる。
結論から書く。米政府への支払い(FMS)を除いた国内企業向け12.94兆円のうち、三菱重工業1社が4兆1,085億円、31.7%を占めていた。
集中度
国内企業1,207社への支払いを、金額順に並べて累積するとこうなる。
| 範囲 | 金額シェア |
|---|---|
| 上位3社 | 52.3% |
| 上位5社 | 63.4% |
| 上位10社 | 73.0% |
| 上位20社 | 82.2% |
| 上位50社 | 91.2% |
| 上位100社 | 95.7% |
一方、1,207社のうち582社(48%)は、3年3ヶ月の合計で1億円に満たない。 中央値は1.07億円である。
「防衛産業には1,200社が関わっている」という言い方は間違いではないが、金額の実態は上位数十社にほぼ集約されている。
上位企業
| 順位 | 企業 | 契約総額 | 件数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 三菱重工業 | 41,085億円 | 700件 |
| 2 | 川崎重工業 | 13,576億円 | 371件 |
| 3 | 三菱電機 | 12,970億円 | 388件 |
| 4 | 日本電気 | 9,192億円 | 742件 |
| 5 | 富士通 | 5,231億円 | 410件 |
| 6 | 東芝インフラシステムズ | 2,852億円 | 161件 |
| 7 | トライサット・コンステレーション | 2,831億円 | 1件 |
| 8 | 日本製鋼所 | 2,421億円 | 96件 |
| 9 | IHI | 2,256億円 | 86件 |
| 10 | 日立製作所 | 2,037億円 | 241件 |
7位のトライサット・コンステレーションは、2,831億円の契約がわずか1件である。衛星コンステレーション関連の大型契約が単発で計上された結果で、他社とは性質が異なる。
なお、この集計から除外した米政府機関(FMS)への支払いは3兆3,012億円あり、全体の20.3%を占める。金額規模でいえば、三菱重工に次ぐ「第2位の受注者」は米国政府ということになる。
三菱重工1社に何が流れたか
三菱重工の契約を金額順に見ると、何が集中を生んでいるかが分かる。
| 契約 | 金額 | 契約年月 |
|---|---|---|
| 極超音速誘導弾等の生産準備役務(その2) | 2,390億円 | 2025年4月 |
| 島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)(その1) | 2,003億円 | 2023年6月 |
| イージス・システム搭載艦1番艦の製造(その3) | 1,397億円 | 2024年8月 |
| 護衛艦(4,800トン型) | 1,286億円 | 2026年2月 |
| 12式地対艦誘導弾能力向上型 | 1,047億円 | 2024年4月 |
スタンド・オフ・ミサイル、イージス・システム搭載艦、護衛艦。安保三文書で強化された重点分野が、そのまま三菱重工の受注に対応している。
集中は緩んでいる
ただし、時系列で見ると意外な傾向がある。
| 年度 | 国内企業への総額 | 三菱重工のシェア | 上位10社シェア | 契約企業数 |
|---|---|---|---|---|
| 令和5年度 | 41,895億円 | 40.1% | 78.5% | 695社 |
| 令和6年度 | 48,830億円 | 29.8% | 75.5% | 812社 |
| 令和7年度 | 37,389億円 | 26.0% | 74.3% | 812社 |
三菱重工のシェアは40.1%から26.0%へ、14ポイント下がっている。 契約企業数も695社から812社へ増えた。
これは同社の受注が減ったことを意味しない。予算増額の初期に大型の生産準備契約が集中し、その後は他社を含む幅広い調達に広がっていった、と読むのが自然だろう。
比較対象として、令和4年度(2022年度)の中央調達1.72兆円について、三菱重工が21.2%、上位5社で44.7%を占めていたという分析がある。今回の集計はFMSを除いた国内企業ベースであり、複数年度にわたる大型契約を契約年度に全額計上しているため単純比較はできないが、予算増額局面で上位企業への集中が強まり、その後やや緩んだという流れは読み取れる。
この数字をどう使うか
参入を検討する企業にとって、この集中構造は2つの意味を持つ。
1つは、装備品本体の受注は現実的な目標にならないということ。 上位10社が73%を占める構造は、装備品が長期の開発と生産設備を要する以上、簡単には変わらない。
もう1つは、下位に800社以上が実在するということ。 1億円未満の企業が582社ある。これらは部品、器材、役務、設備といった領域で契約を得ている。金額は小さいが、実際に取引口座を持っている企業がこれだけ存在する。
上を目指すのか、実在する裾野に入るのか。同じデータが、狙いによって正反対の意味を持つ。
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本稿について
- 対象データ:防衛装備庁「契約に係る情報の公表(中央調達分)」2023年4月〜2026年6月分(126ファイル・22,392件)
- 集計は筆者が独自に実施したものであり、防衛省・防衛装備庁の公式見解ではありません
- 金額は契約金額であり、支出ベースとは異なります。複数年度にわたる契約も契約年度に全額を計上しています
- 契約相手方は公表資料の表記をそのまま用い、法人番号で名寄せしています。グループ企業は別法人として集計しています
- 本稿は防衛政策の是非を論じるものではなく、公開調達データから産業構造を観察するものです
防衛省の月次契約データを継続的に集計・分類しています。特定領域の受注動向調査や、企業別の受注実績の確認などのご相談は、下記までご連絡ください。
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