防衛費の2割は米国政府へ——FMS調達3年間で3.3兆円の内訳
防衛装備品の調達を分析するとき、必ず突き当たる存在がある。契約相手方の欄に「米空軍省」「米海軍省」と書かれた契約である。
FMS(Foreign Military Sales/対外有償軍事援助)——米国政府が同盟国に装備品を有償で提供する制度による調達だ。企業との商取引ではなく、政府間の取引になる。
契約データ39ヶ月分(2023年4月〜2026年6月・22,392件・16.24兆円)から、契約相手方が米国政府機関である契約を抽出した。651件・3兆3,012億円。全体の20.3%である。
規模
| 年度 | 件数 | 金額 | 中央調達額に占める比率 |
|---|---|---|---|
| 令和5年度 | 215件 | 13,678億円 | 24.6% |
| 令和6年度 | 205件 | 8,743億円 | 15.2% |
| 令和7年度 | 196件 | 9,809億円 | 20.8% |
年度によって15〜25%の幅で変動する。 大型案件の契約時期に左右されるため、単年の数字で傾向を語ることはできない。
3年3ヶ月を通算すると、米国政府への支払いは3兆3,012億円。これは国内企業では三菱重工業(4兆1,085億円)に次ぐ規模で、川崎重工業(1兆3,576億円)の2.4倍にあたる。
相手方の内訳
| 相手方 | 件数 | 金額 |
|---|---|---|
| 米空軍省 | 177件 | 17,719億円 |
| 米海軍省 | 306件 | 14,527億円 |
| 米陸軍省 | 145件 | 740億円 |
| その他(国家安全保障庁、ミサイル防衛庁など) | 23件 | 27億円 |
空軍省と海軍省で98%以上。 陸軍省は件数こそ145件あるが金額は740億円にとどまる。航空機と艦艇関連装備が、FMSの中心であることが分かる。
何を買っているか
| 契約 | 金額 | 相手方 | 契約年月 |
|---|---|---|---|
| F-35A/B戦闘機 | 2,667.6億円 | 米空軍省 | 2024年11月 |
| F-35A/B戦闘機 | 2,625.9億円 | 米空軍省 | 2023年11月 |
| F-35A/B戦闘機 | 2,226.8億円 | 米空軍省 | 2026年2月 |
| KC-46A(空中給油機) | 2,224.4億円 | 米空軍省 | 2025年7月 |
| E-2D早期警戒機 | 1,880.9億円 | 米海軍省 | 2023年8月 |
| 長射程誘導弾 | 1,303.6億円 | 米海軍省 | 2024年1月 |
| イージス・システム構成品等の整備 | 1,252.2億円 | 米海軍省 | 2024年2月 |
| F-15の能力向上(その4) | 1,225.2億円 | 米空軍省 | 2023年7月 |
| F-35 ALGSの態勢整備 | 862.3億円 | 米空軍省 | 2026年2月 |
| イージス艦等へのトマホーク発射機能の付加 | 846.5億円 | 米海軍省 | 2024年1月 |
F-35が3年間で3回、合計7,520億円。 これに加えて、F-35の運用支援システム(ALGS)の態勢整備が2件で1,678億円ある。F-35関連だけで9,198億円、FMS全体の28%を占める。
KC-46A、E-2D、F-15能力向上を合わせると、航空機とその関連で1兆5,000億円規模になる。
海軍省側は、イージス・システムの整備、トマホーク発射機能の付加、SM-3ミサイルなど、ミサイル防衛とスタンド・オフ能力に関するものが中心である。
この数字が意味すること
参入を検討する企業にとっての意味は明快で、この3.3兆円には日本企業が入り込む余地がない。
FMSは米国政府との取引であり、装備品は米国の生産ラインで作られる。国内サプライヤーが関与する余地は、一部の整備・後方支援を除いてほぼない。
したがって、防衛費増額の話をするとき、「43.5兆円の市場が生まれる」という理解は正確ではない。 中央調達に限っても、その15〜25%は米国政府に支払われる。国内企業が競争できる金額は、その分だけ小さくなる。
一方で、FMSに付随する国内発注も存在する。F-35関連ではIHIがエンジン部品を、三菱重工が機体の最終組立を担っている。FMSの全額が国外に出ていくわけではないが、契約データ上はそれが分離できない。この点は本稿の限界である。
数字の扱いについて
FMSは政治的な文脈で語られやすい主題である。「対米依存が高すぎる」「国産化を進めるべき」といった議論は活発だが、本稿はその是非を論じない。
ただし、議論の前提となる数字は明確にしておきたい。
- 中央調達における米国政府への支払いは、年度により15〜25%
- 金額の中心はF-35、KC-46A、E-2Dといった航空機
- 次いでイージス・システムとミサイル
この3点は、公開データから誰でも検証できる事実である。
補足:本稿の集計方法
契約相手方の名称が「米」で始まる契約を機械的に抽出した。これらの契約には法人番号が付与されていない(日本の法人番号を持たないため)ので、法人番号の有無でも判別できる。
なお、随意契約理由の欄には「日米相互防衛援助協定に基づく調達であるため」という趣旨の記載がある。契約件名に「FMS」と明記されているものもあるが、明記されていない契約も多いため、件名だけでFMSを抽出すると大幅な取りこぼしが発生する。 相手方または随契理由で判定する必要がある。
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本稿について
- 対象データ:防衛装備庁「契約に係る情報の公表(中央調達分)」2023年4月〜2026年6月分(126ファイル・22,392件)
- 抽出条件:契約相手方が米国政府機関である契約
- 集計・分類は筆者が独自に実施したものであり、防衛省・防衛装備庁の公式見解ではありません
- 金額は契約金額であり、支出ベースとは異なります。複数年度にわたる契約も契約年度に全額を計上しています
- FMS契約に付随して国内企業に発注される部分は、本データからは分離できません
- 本稿は防衛政策の是非を論じるものではなく、公開調達データから産業構造を観察するものです
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